施行令で規定さる一般的な鉄骨造*1においては構造用鋼材の板厚は2.3mm以上のものが用いられます。一方で平成13年に制定された薄板軽量形鋼造告示*2においては板厚2.3mm未満の形鋼をドリルねじ等の接合を利用して用いることが可能です。当初3階建て以下の建物への適用に限られていましたが、2012年の告示改正により現在では4階建ての建築物への適用や、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造などの他構造に薄板軽量形鋼造による耐震部材を組み込むことも可能となっています。

この薄板軽量形鋼造の1種で、通称スチールハウスとよばれる工法は、枠組壁工法(ツーバイフォー)の枠組み材を形鋼に置き換えたもので、図1に示すように合板やせっこうボードなどの面材を板厚1.0mm程度の形鋼にドリルねじで留め付けることによって構成する壁パネル及び屋根・床パネルを工場で製作し、建築現場ではこのパネルを基礎の上に組み立てることによって構造躯体が完成します。
 国外においては冷間成形による薄板形鋼を用いた建築物は、Cold Formed Steel construction(CFS建築)と呼ばれ、1990年代より北米やオセアニアを中心に普及が進み、近年では中国、インド、中東、南米、アフリカ等においてもその建設が急増しています。米国におけるCFSの板厚の範囲は0.0147インチ(0.373mm)〜約1/4インチ(6.35mm)とされており、日本でみられる壁工法によるものだけでなく、トラス式の壁や床・屋根フレームを用いて大スパンの空間にも対応した構造形式や、8階建て程度までの中層建築物の構造体への適用も進んでいます。

軽くて強いCFS

木材はスチールやコンクリートに比べて比強度(密度当たりの引っ張り強さ)が高いため、軽いわりに強い材料であることが知られています。

しかし、密実な整形断面で用いられる木材と、形鋼として成形されるCFSを比較するとこの関係は逆転します。図2に木造とCFS建築の柱材の圧縮に対する座屈耐力を比較します。座屈耐力の値はほぼ同じですが、CFSの単位重量は6割程度となっています。つまり部材単位で考えた場合にはCFSの方が軽いわりに強い材料であることが分かります。

耐久性

CFSは非常に薄い鋼材であるため錆による劣化が心配になるかもしれません。CFS建築で使用される形鋼は国内外問わず溶融亜鉛めっき鋼が標準的に使用されます。亜鉛めっきの耐用年数は塗装による錆止めと比較して非常に長いため、表1に示すように重量鉄骨造の建物と同等以上の耐久年数を確保することができます。また、塗装による錆止めと違い表面に傷がついた場合にも亜鉛は鉄よりも先に溶けて保護する性質(犠牲防食)を有しています。このため、切断面や穴あけ部についても、塗膜防錆処理の場合に必要となるようなタッチアップをする必要がありません。

CFS建築とアフターメンテナンス

国外においてCFS建築の普及が進む大きな理由のひとつは、住宅におけるアフターメンテナンスに係る手間とコストの圧縮です。特に温暖な地域における近年のシロアリ被害の増大は深刻で、米国のニューオリンズでは1989年から1998年までの9年間でシロアリ罠での捕獲数が2,000%以上増加し、ニューオリンズの都市部だけで1年あたりに3億ドルの被害が発生しているとされています2)。シロアリ被害は建物の耐震性、耐風性、耐火性等の安全性に深刻な低下を及ぼします。CFS建築の構造体はスチールですのでシロアリ被害の恐れがないだけではなく、床鳴りやクロスのひび割れ等の原因となる木材のクリープ変形や、壁内結露を原因とする木材の腐朽やカビの発生とこれによる室内環境の汚染の心配が少ないため、米国においては特に高価格帯の住宅建設を中心に採用される傾向にあります。

日本におけるCFS建築の現状と課題

国外において普及が進むCFS建築ですが、日本おいては新設着工数におけるそのシェアはわずか0.2%程度であり、一般の施主だけでなく建設事業者の間でもその知名度は極めて低いのが現状です。戸建て住宅の建設において普及が進まない大きな原因は新築時の建設コストによるものだと考えられます。2階建て住宅の場合、一般的にCFS建築は木造と比較して1~2割程度のコストアップとなる場合が多いようです。ただし、このコストはその後のアフターメンテナンスに係る費用の低減によって十分に回収が可能であると考えられています。また、3階建ての共同住宅や福祉施設といった建物への適用においては、コスト的にも他構造と比較してメリットが出る場合が多くその採用が進みつつあります。今後、国内においても大きな普及が期待されるところであり、日本CFS建築協会では意匠・構造設計や生産、施工に関するマニュアルや技術者教育体制の充実、耐火や構造に関わる告示・認定等の仕様の整理、構造計算プログラム等の設計支援システムの整備等を進めるとともに、講習会の実施等によりその認知度拡大と設計支援等を行っています。

* 建築構造の「なぜ」がわかる一問一答 (エクスナレッジムック) への寄稿文より引用

*1 建築基準法施行令第三章第五節 鉄骨造
*2 国土交通省告示第千六百四十一号 薄板軽量形鋼造の建築物又は建築物の構造部分の構造方法に関する安全上必要な技術的基準を定める等の件

参考文献
住宅の腐食・防食Q&A, 丸善株式会社
TERMITE THE TERMITES, vol.1 ISSUE 1, Steel Framing Alliance